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いくらタモツでも、仕事関係の電話がきた場合は――タモツの仕事のネットビジネスで電話が来るというのは、たいていはクレームらしいのだけど――あ、うん、とは言わない。
愛梨が、疑い深そうにタモツを凝視している……。
「うんうん、あそう、あーいいよ、え、今」
いきなり調子が変わった。面食らったような声だ。
タモツは牛乳瓶底の眼鏡の奥の目を見開いて固まっていた。
そのまま電話は切れたらしい。
洗い物を終え、食器乾燥機のスイッチを入れてしまったわたしは、手を拭きながらタモツの側に行った。
どうしたんだよ、誰だったの、と聞くと、タモツは目を白黒させてスマホをテーブルの上に置いた。
毛玉のついた緑のセーターには食い零しがいくつか着いており、無精ひげも薄っすら生えている。
ぼさぼさの頭で、タモツは言った。
「来るんだとさ。今、すぐそこに来てるらしくて、もうエレベーターに乗って、ここに」
言い終わる前に、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
タモツは口を半開きにし、愛梨が固い顔つきで立ち上がると、野兎のように玄関に突進した。
あ、愛梨、ちょっと。
わたしは慌ててその後を追い、愛梨がドアのチェーンを外して開いたのと同時に玄関に駆けつけたのだった。
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