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 「こんにちは、あら」  その、清楚な女の人は、綺麗に薄化粧した品の良い顔で、愛梨を見て微笑んだ。  ベージュのツーピースを着て、すらっとした足はストッキングに包まれている。  優しそうなその人は、嬉しそうに玄関の中を見回し、お邪魔します、と言った。  誰だ。  誰なんだ……。  「東京からこちらに来て、すぐに思い出したんです。安西さんのマンションがこの当りだったなって」  シックな色の口紅を装っている。ふんわりと穏やかな香りが漂った。上品だ。  大人の雰囲気溢れる、やさしそうな女性である。目じりにごく自然な小さな皺が寄っていて、それを無理に隠そうとしていないのも、好感が持てた。  「あなたが愛梨ちゃん。可愛いわねえ」  安西さんが、可愛がるわけだわ。  その人は、立ち尽くしている愛梨の頭をさりげなく撫でた。  その指先も、品の良い自然な色のマニキュアが施されている。  全てが穏やかで、柔らかい人だった。
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