明陰の志郎

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①  教室。上からぶら下がった足。それを見上げて驚く女生徒の姿  ナレ「いまどき、学生の自殺は珍しくもない。いちいち新聞記事にもならない。首をつれば、普通、糞尿垂れ流しになるものだが、そいつの現場はきれいなものだった。覚悟の自殺、だったのだろう。遺書は・・なかった」  一ヶ月後。その日、秀麗館高校に転校生が来た。  教室外廊下に静かに立つ転校生の背中。  <2-C>の看板。  内部より声”今日から転校生がこのクラスに来ます””本当ですか?””わ~、知らなかった”  ”さ、入ってきて”  ドアが開き、静かに入る。  その顔を見た生徒皆、息を飲む。  担任教師水戸晶子も絶句する「え・・君が、江戸崎君?」  転校生が黒板に名前を書いたあと、静かな表情で答える「そうですが、何か」  晶子は目線を合わせないようにして、あわてて言う。「い、いえ、なんでもないわ。どうぞ、皆に自己紹介して」  転校生、生徒達に向かい、静かに言う「江戸崎志郎です。東天高校から来ました」  ヒソヒソ声”おい、東天って、あのエリート高の?””あの制服、そうだ、東天のだ””じゃあ、違うぞ””なんだ、他人の空似かよ””安心したぜ””他人だ、他人”  晶子、改めて志郎を見て言う「江戸崎志郎君、よね」  志郎、無言で見返す  職員室  大村昆に似た教頭が声をかける「どうしました、水戸センセイ」  晶子、PCに見入りながら「今日、入った転校生、彼、江戸崎志郎ですよね」  教頭「ああ、東天高校の・・そうですよ」  晶子「あれ」  教頭「どうしました?」  晶子、画面を指差しながら言う。「彼、こんな顔でしたっけ」  教頭「別人だとでも言うのですか?何を変なことを・・あ・・れ、でも、そうですね。なんか、似ているような、違っているような」  通りかかった田山が覗き込む。「どうしました?水戸先生」  晶子「あ、田山先生。今日の転校生なのですけど」  田山「ああ、あの東天高校の。ウチのクラスでも、話題になっていましたよ。あの日本屈指の超エリート高校の生徒がウチみたいな、下級高校に来るなんてって」  教頭「田山先生、何を言っているんですか、失礼な!」  田山「あ、教頭先生、いらしたのですか」  教頭「いらしたのじゃないでしょ~」
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