騎士の心得

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「さ、佐倉さん・・・、  す、好きです。」 どうも上手く言えねえ。 ケンカは勝手に始まるから、 勝手に体が動いてくれるからな。 何も考えなくて良いからな。 好きだって言って、 何回もフラレてんだから、 そろそろ慣れても、 良さそうなもんだがな~。 どうも緊張しちまうな。 え~と、 花束渡して、 佐倉さん好きです! って言うだけ、 たったの9文字だ。 これをいざとなると言えねえ。 あ、この階段登ったら、 次は廊下を歩かねえと。 階段を登る足が重い・・・。 またフラレたら・・・、 って、どうしても考えちまう。 またフラレたら旅に出るか。 あ、後一段登ったら右向かないと。 そう、ここ登って右に向く・・・。 あ・・・、 抱き合ってる。 知らねえ男と佐倉さん。 抱き合ってる。 気付いたよ・・・、 俺は今気付いた・・・。 俺は騎士だ。 命懸けで姫を守った騎士だ。 騎士ってのは、 姫を守るだけなんだよな。 命懸けで姫を守ったって、 王様には()れねえ・・・。 王様になるのは、 どっか余所(よそ)のイケメン王子なんだよ。 それがおとぎ話の決まりだ。 騎士は姫を守りきった事が(ほまれ)なんだ。 それが騎士の心得(こころえ)なんだ。 それ以上を望んじゃならねえ。 俺は王様になれると勘違いした、 間抜けな騎士だった。 間抜けな騎士は、 城の門の外に出てって、 姫の幸せを願ってれば良いんだ。 佐倉さんと目が合った。 これ以上・・・、 無様(ぶざま)は見せらんねえ。 俺は階段を降りた。
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