5人が本棚に入れています
本棚に追加
ねえ、と妻は言った。
窓から射し込む日差しが彼女を柔らかく照らす。
なんだい、と僕は妻に目をやる。
僕の膝の上には、もうすぐ5歳になる娘。
すやすやと寝息をたてる娘の髪を、妻は優しく撫でた。
「もし、私が死んだら」
俯いているせいで表情は見えない。
彼女の腕から伸びる透明の管は、ぽたりぽたりと水滴を落とす。
すうっと息を吸い込むと彼女は言った。
「あなたの隣に毎日、化けて出て来てあげるわ」
いたずらっ子のような顔で彼女は笑う。
その顔がまだ幼い娘とそっくりで、僕もつられて笑ってしまった。
「それは心強いなあ」
僕は妻の手をそっと握った。
「だって心配だもの。この子のことも、あなたのことも」
彼女はじっと僕を見つめる。
なんだか胸が苦しくなって、僕は額にそっと口付けた。
「きっと良くなるさ」
なんの根拠もない、ただの僕の願望だった。
声が震えていることに、きっと彼女は気づいているはずだ。
それを悟られまいと僕が平静を装っていることも。
「そうね」
彼女は優しく微笑んで、もう一度娘の髪に手を伸ばす。
最初のコメントを投稿しよう!