はじまりのさよなら

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ねえ、と妻は言った。 窓から射し込む日差しが彼女を柔らかく照らす。 なんだい、と僕は妻に目をやる。 僕の膝の上には、もうすぐ5歳になる娘。 すやすやと寝息をたてる娘の髪を、妻は優しく撫でた。 「もし、私が死んだら」 俯いているせいで表情は見えない。 彼女の腕から伸びる透明の管は、ぽたりぽたりと水滴を落とす。 すうっと息を吸い込むと彼女は言った。 「あなたの隣に毎日、化けて出て来てあげるわ」 いたずらっ子のような顔で彼女は笑う。 その顔がまだ幼い娘とそっくりで、僕もつられて笑ってしまった。 「それは心強いなあ」 僕は妻の手をそっと握った。 「だって心配だもの。この子のことも、あなたのことも」 彼女はじっと僕を見つめる。 なんだか胸が苦しくなって、僕は額にそっと口付けた。 「きっと良くなるさ」 なんの根拠もない、ただの僕の願望だった。 声が震えていることに、きっと彼女は気づいているはずだ。 それを悟られまいと僕が平静を装っていることも。 「そうね」 彼女は優しく微笑んで、もう一度娘の髪に手を伸ばす。
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