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思い返すは
コンコンと控え室のドアがノックされた。
僕は、やや緊張しながら背筋を伸ばす。
扉を開けて入ってきたのは、純白のドレスに身を包んだ娘。
「似合うかな?」
と、少し照れたように僕を覗き込んだ。
君が死んでから20年。
こんなにも早いとは思いもしなかったよ。
今日、僕たちの娘は結婚式を挙げる。
澄んだ瞳も、緩いウェーブを描く髪も、照れた時に耳を触る癖も。
驚くぐらい、君によく似た美人に育っただろう?
僕は誇らしくなって空を見上げた。
娘が妻と重なる。
ああ、そういえば君も結婚式の日に同じ言葉を言っていたなあ。
似合うかな、と何度も聞いてきた君が懐かしい。
今までで一番綺麗な君を前に、僕は何も言えずに固まっていたっけ。
「お父さん?」
娘の声に、はっと我に返る。
「お母さんにそっくりで驚いたよ」
少し気恥しくて、僕はわざとそう言った。
「もう!お父さんたらお母さんのことばっかりね」
娘は呆れたように口を尖らせる。
「あれ!?ネックレス忘れてきちゃった!」
ばたばたとメイクルームへ戻っていくそそっかしい娘。
そういうところは僕によく似たみたいだ。
苦笑いを浮かべる。
転んで怪我なんかしないか、僕は心配だ。
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