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彼には演技経験は無く、大道具を担当していたらしい。
最終的には大道具から衣装まで、全てにおいて活躍していたのだと娘は嬉しそうに話す。
聞けば、彼は児童養護施設で育ったという。
「僕は両親の顔も知らないんです」
どうしようもない寂しさのなかで苦しんでいた彼を救ったのは娘だった。
生活の為アルバイトをいくつか掛け持ちしながらの活動。
精神的にも体力的にもきつかったはずだった。
「彼女と一緒なら、疲れなんて一瞬で吹っ飛びますよ」
彼は明るく笑う。
なるほど、愛のエネルギーとは凄いものだ。
妻のことを思い出して、僕もなんとなくわかる気がした。
「娘さんを、僕にください」
真剣な表情と緊張に震える声。
答えなんかひとつしか無いじゃないか。
「ぜひ、幸せにしてやって欲しい」
あの時の2人の顔は、忘れられない。
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