あなたのために

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「こら。また僕の書斎に入ったな? ……おもしろいかい?」  読書の邪魔をしないように、僕はこっそり近づき、女の子の隣に太めのからだをすり入れた。彼女は身じろぎひとつせず、ノートに顔をくっつけたまま面倒くさそうに応えた。「ふつう」 「そうかあ」僕は苦笑した。 「でもね、気になるんだ。天使のリィリアはどうなっちゃうの? ここに『つづく』ってあるよ。ねえ、パパ、わたし読みたい」  ……そうだ。僕は大切なことを忘れていた。誰かに読んでほしいから、書くのだ。  ひとりでも、僕の物語を読んでくれる人がいるのなら。僕はあなたのために、書き続けよう。 「……リィリアはね、仲間の天使たちに助けられるんだよ」 「ほんと? それから?」  ノートを受け取った僕は、途切れていたページを開く。娘は僕の膝に座り、嬉しそうに笑っていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加