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朝、真っ白なシーツにくるまれて少年は目覚める。
真っ白い肌に、長く、上を向いたまつげ。
まるで女の子のように華奢な身体の園田蒼葉は、制服に着替え、机においてあった文庫本を大事そうに胸に抱えて学校へ向かった。
緑がおいしげる通学路を歩きながら、蒼葉は何やらつぶやいている。
「久しぶり、本ありがとう。面白かったよ。
久しぶり!本ありがとうね。すごく好きだった.....」
蒼葉は同じようなセリフをニュアンスを変えて復習しながら、学校へと入っていった。おごそかで、神聖な雰囲気すら漂わせる校舎では、真っ白な制服で身を包む育ちの良さそうな生徒達が蒼葉を迎えていた。
「久しぶり!」
一人の女子生徒が教室に入った蒼葉を見るなり目を輝かせた。
その声を教室中のクラスメイト達がききとり、複数の女生徒達が蒼葉の元へかけより割れ物に触れるかのように蒼葉を気遣う。
「元気だった?調子どう??」
蒼葉は笑顔でうん大丈夫、と返すが意識は一つの場所にしか向いていなかった。
目指す場所に向かって、女子生徒達をかきわけてズンズンと進んでいく蒼葉。
目的の場所が視界に入った。
田中由莉奈の席だ。しかし、そこは誰も座っていない。
「…田中さんってもう来る?」
何でもなさ気に、蒼葉は近くの生徒にきく。
「本借りてたんだ」
「え??あ、2週間前に転校したよ。大阪」
女生徒も、何でもなさそうに返す。
蒼葉は脱力した。彼を残して、世界の輪郭はあいまいにぼやけていった。
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