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昼休み。蒼葉は学校の広い敷地内にある人目のつかないベンチに力なく座っていた。植え込みの木々のすきまから木漏れ日が差し込む、蒼葉にとってお気に入りの場所だ。
「あっ見つけた!」声のした方に目をやると、阿部愛里紗が立っている。
見るからに明るそうな彼女は図々しく蒼葉の隣に座ってきた。
「今日、“コレ”だから。蒼葉君も来てね....」
阿部愛里紗は意味あり気に 左手の人差し指に中指をからませるジェスチャーを蒼葉の目前に示す。
蒼葉の体が一気にこわばった。
「…いいよ、”俺”は」
「俺って。なんかやさぐれた笑??一回くらい来なよ、大丈夫。一度もバレてない」
「考えとくよ」
「花帆の家でやるから!みんな来るよ」
と言い残し、阿部愛里紗は去った。
蒼葉は嫌悪感しかなかったが、もう断る必要もないのかも、と思い直した。
田中由莉奈と蒼葉は恋人同士だった。蒼葉にとっての初恋だったが、半年前彼女から別れを切り出され、交際は終わった。
「純粋過ぎるよ」
彼女が口にした別れの理由だ。
言われた時は純粋というイミが良く分からなかったが、
幼い頃から仕事で多忙な両親に気を遣い、わがままの言わないいい子でいようと心がけていた結果、相手の言う事を良くきく素直な人間に育ったように思う。
要するに、欲のない・意思の無い人間だと言われてしまったのだ。
そんな自分でも、彼女に対する気持ちだけは本物だった。しかし彼女の答えはこうだ。貸した本をそのままに、何にも告げず大阪へと姿を消した。
蒼葉は近くのゴミ箱へ本を捨てようとしたが、捨てられず、やはり大事そうに本を抱えた。
今更どうすればまるで人形のように意思のない自分から、人間らしい人格に生まれ変われるのか。青葉には検討もつかなかった。
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