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「まあ…あの妹じゃ手を焼くな」
俊介が言うと、紗代は苦笑いを浮かべた。
「男を見る目は無いし、勉強も嫌いだし、将来の事なんてなにひとつ考えてなくて、無鉄砲で掴みどころがない。妹じゃなかったら関わらなかったかも」
紗代がそう言うと、俊介もふっと笑って、
「よく見てんじゃん」と、紗代の頭を撫でる。
兄妹が…どんなものなのか、分からなかった。
頭を撫でる俊介の手が優しかったからか…溢れた涙が視界を歪める。
「頑張ったな。一人で……」
また優しい言葉を掛けられると、涙は止まらなかった。
俊介の胸に飛び込んだ紗代は、声を上げて泣いた。
同じ傷を負った二人の兄妹が支え合おうとしている姿を見て、他の捜査員たちも口唇を噛み締め、目を伏せた。
まるで他人事みたいに敵意を剥き出し、カメラの前で『嘘の情報』と語った磯島を思うと、怒りさえ沸く。
ふと、会議室のドアが開いて、捜査員が大きな声を上げる。
「磯島が動きました!」
その声を聞けば、野本と緒方が立ち上がった。
「本田さんに伝えてきます」
緒方が部屋を出て行くと、野本が二人に歩み寄って来る。
野本は何も言わず、ただ紗代と俊介を見て瞬きをした。
それが何を意味するのか、俊介には分かったようだった。
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