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「やっぱり、辰雄くんはお姉ちゃんの方が大事なの?」
「そういうことじゃなくて……」
辰雄は終始ばつが悪そうにしていた。
加奈子は、まともに立っていられず壁に寄りかかる。
「じゃあ、わたしの方が好き?」
「……うん、好きだよ」
心臓を貫かれたような痛みが、加奈子を襲う。
ズルズルと壁を伝って崩れ落ち、自分を守るように抱きしめて蹲る。
いつか辰雄が加奈子に言った。
照れ臭そうに、大事そうに、万感の想いを込めて贈ってくれた宝物のような言葉が今、同じ響きを持って真理亜に向けられている。
それを耳にした瞬間、加奈子の持つ宝物はただの石コロに変わってしまった。
遠慮なく家に侵入してきた真理亜は、寝室などの部屋を覗いては「お姉ちゃん?」と呼びかけた。
そしてリビングに到達すると「やっぱりいないじゃん」と辰雄に抱きつく。
「やっぱりいないんだな」
そういう辰雄の声には、安堵がこもっていた。
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