1人が本棚に入れています
本棚に追加
親父は、昔から問題ばかり起こしていたそうだ。
母親は、親の知り合いからの紹介で、そんな親父と嫌々結婚したらしい。
息子を置いてでも逃げたかった母の気持ちが分かる気がしてしまうのは、そういう理由からだ。
もともと望んでいない相手との結婚だったのだ。
幸せになれたならいいけれど…予想していた、もしかするとそれよりも遥かに酷い現実だったなら、誰だって逃げたくもなる。
だからもう、母の事は恨んでいない。
むしろ、親父の事も俺の事もすっかり忘れて、新しい人生を歩んでいてほしいくらいだ。
いつか再会したいだなんて、望んでもいない。
きっと母は、親父とそっくりに成長してきた俺を見たら怯えた顔をするだろうし、そもそも会いたくもないはずだ。
すっかり忘れるだなんて、できないだろう事は分かっている。
だが俺にとっては、母は間違いなく過去の人で、もはや顔を思い出す事さえできないし、日々の生活の中では、母の事を思い浮かべる事だってない。
俺の頭にいつだって浮かぶのは、一緒に暮らしている親父だ。
幼い頃は、ただひたすら恐怖の対象として、しかし今では、たった一人の家族として。
最初のコメントを投稿しよう!