俺と親父

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 うちの生活は楽じゃない。俺は中学にすらほとんど通わなかったし、もちろん高校にだって行っていない。  俺が働かなければ、親父はすぐに悪い癖が出てせっかく稼いだお金も失くす。  俺が働くようになるまでは、親父もさすがに自分が全て持っていると生活できなくなる事は分かっていて、稼いだお金は俺に預けていたから、俺は必死に遣り繰りを覚えた。  親父が我慢できなくなってお金を持ち出そうとした時には、俺は恐怖心も捨てて――と言うより、親父よりも生活できなくなる事の方が恐怖だった――親父に飛びかかっていくようになった。  そうして徐々に、俺は親父に対抗する力を持った。  親父は、数年前に倒れて以来体調を崩して、それからは明らかに俺の方が強くなった。  いつも親父から暴行を受けていたせいで、俺は殴られたり蹴られたりする時、どうやってガードすればいいかという事も自然に覚えたし、反撃の仕方も身に着いた。  その点については、親父に感謝している。  世の中、いい事ばかりでもなければ、いい人間ばかりでもない。自分の身を守る術を身に着けるに越した事はないし、それを自然と手にする事ができたのは、まぎれもなく親父のお陰だ。  そう思えるようになった時から、俺にとって親父はただの暴力野郎ではなく、たった一人の家族になった。  だから、怒鳴りつけられようが尻を蹴りつけられようが、俺は親父の面倒を見る。
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