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「待って!
いや、待ったアリカ!
巳琴が君に用事があるって言っててね!」
「……は?」
訝しげに首を傾げ、じわりとした動きで部屋を見渡している桃色の髪の少女は名をアリカと言い、最近になってこの城に住み始めた魔術士だ。
その性格はまさしく狂犬、気に入らぬ相手なら躊躇なく噛み付き、招かれざる客人達を幾度となく消し炭に変えてきた。
触れる者皆が火傷する姿は歩く火葬場と人の言う。
そんな彼女も部屋を見渡して目を丸くする。
フィリィと巳琴が座るソファに目をやると、先程の機嫌の悪さも瞬時に鎮火、ささっと髪を整え布団の上でお行儀良くちょこんと座り直し、何事も無かった様に二人に会釈をした。
「……おはようございます」
「おう、起こして悪いな」
このなんとも居た堪れないと言う表情は、比喩するなら、飼い犬が悪い事をして、それが飼い主にバレた時のなんとも言えない仕草、と言った所か。
誰とも目を合わさず、右手で髪を弄り、次に返す言葉をどうしたものかと考える彼女を見ていると、どこか小動物的だ。
「そんな寝起きじゃ、ばつも悪いだろ
仕事の話はもう少し後にして、フィリィの持ってきた茶でも飲んでリラックスしな」
「あっ、はい、お気遣いどうも……」
「いやいや、畏まりなさんな
こっちは面白いものが見れて満足なんだ
なぁ、フィリィ?」
巳琴が微笑みながら首を傾け、フィリィの表情を覗き込むと、フィリィは目を瞑り、右手で口を抑え、今この状況を密かに噛み締めていると言った様子。
またそれか、と両手を煽った巳琴は改めてメイルの表情を伺った。
彼女も彼女でホッと胸を撫で下ろしている。
が、目の前の刻み香の上に降り積もった雪を見て落胆し、何も言わずティーカップに口を付けた。
「いやはや……
中々どうして、お前らがそんな仲良くしてるとは
見た感じ、アリカも頻繁にここで寝泊まりしてるみたいだし?
いつの間にそんな関係になったんだい?」
「茶化さないでおくれよ、手前とアリカはそう言うんじゃない
他の奴にも何度か言ってるが、勘違いはそろそろうんざりだよ
手前らはただの、友人なんだからね」
不満そうに鼻を鳴らしたメイルだが、どこか満更でも無さそうな面持ちだ。
対してアリカも目を擦り、大きな欠伸をして、私には関係ありませんと言った感じで背伸びをした。
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