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「……どうだかね?」
「あ、そうだメイル」
「無視かよお嬢さん」
アリカもマイペースなものだ、ベッドから出た彼女は直ぐにメイルの横に付き、彼女が持っていた煙管を手にし、刻み香の山に目を向けた。
それに乗った雪にアリカがフッと息を吹き掛けると、雪は風に乗る様にして霧散し、露になった葉をつまんで煙管に詰める。
「この前言ってたアレだけど、また今度貸してよ」
「あぁ、構わないよ
君も努力家だねぇ」
「苦手な事でも使えるなら覚えたいだけって前にも言ったでしょ
もう少しで何か閃きそうなの」
彼女が煙管を咥えると、その先端に詰められた葉がぼうっと赤く光り出し、瞬く間に紫の煙をもくもくと上がる。
「げっ……
お前もそんなの覚えたのか……」
「……随分前からですよ
魔術士なんで、こう言うのはここに来る前から使ってましたし
まぁ、旅先で手に入るのはこんな上等なモノじゃなかったですけど」
彼女の予想外な趣味に思わず顔をしかめる巳琴。
それを余所に、メイルが手に持っていた本を眺めながら刻み香の煙を嗜むアリカ。
そして、それらをほぼ真顔で眺めているフィリィ。
アリカは来客があるにも関わらずいつもの調子でメイルの読んでいた本の一文を指差し質疑、それに一つ一つ丁寧に応答するメイルの姿は、それを眺める二人の心を洗っていく。
「……巳琴、もう一本貰って良いかしら?」
「あ?
構わねぇが、どうした?」
「今日は、ちょっとサボっても良いかなって思ったの」
フィリィのふとした発言に、巳琴が思わず彼女の手を握った。
「ちょっと巳琴……」
「悪ィなお二人さん、ちょっとお暇させて貰うわ」
巳琴はそれだけ言って立ち上がり、フィリィの手を引く。
突然の事に成すがまま、フィリィは巳琴につられて立ち上がり、その膝に乗せていた灰皿を落とした。
「あっ、すみませんメイルお嬢様……」
「良いよ良いよ、ソイツはこっちで片付けるさ
サボタージュなら黙っておいてあげるよ」
「ハハッ、話が分かるなお嬢様
コイツは借りてくぜ」
扉へ向かって歩き出した巳琴はニッとメイルに笑顔を向け、フィリィの手を握ったまま、ドアノブに手を掛けた。
一瞬振り向いて、アリカへ視線を注いだ巳琴がポッと言葉を投げる。
「アリカ、用事はまた今度だ
次は連絡入れてから邪魔するぜ」
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