返してアイスクリーム

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──以下、回想 からっと晴れた空も見えぬ地下。 城に住まう魔術士達が籠る研究室が連なる研究棟の廊下にコツコツと足音が響いている。 上機嫌な鼻唄に混じって聞こえるそれは、人影を見付けて押し黙った。 「よぉ、アフタヌーンティーの準備かい?」 鬼の技師、青い瞳を爛々と輝かせた仮橋 巳琴(かりばしみこと)が話し掛けた相手は、黄色く光を吸い込む不思議な瞳の使用人、フィリリア・イリア。 フィリリア・イリアこと、フィリィは声を掛けてきた巳琴に目を向けるが、表情は冷たく凍り付いた鉄仮面の様に動かず、じいっと巳琴の瞳に視線を差し込んだ。 「仕事中に話し掛けないで、って、いつも言ってるでしょう 私は忙しいの」 「そりゃすまねぇな 何せ、私もその部屋に用があるもんだから お前さんに了承を取っておこうと思った次第でございまして」 「それは中に居るメイルお嬢様に直接聞いて頂戴 私はお嬢様に呼ばれて来たのよ? 別件ならちゃんとアポくらい取っておきなさい」 フィリィは左手に持ったティーセットの乗っているトレイを含め、その身体をピクリとも動かさずに淡々と言葉を投げ掛ける。 対して巳琴、眉を吊り上げてじっとフィリィの表情を伺う様に目を細め、眼鏡のズレを直し、ずんずんと歩を進め、ずいっと身を乗り出して彼女の顔にピッタリと自分の顔を寄せた。 「……ちょーっとばかし聞いておきたいんだけどよォ あの動物園、まだ行きたかったりするかい?」 「……何で今更」 「いやいやほらほら、確認だよ、か・く・に・ん なんだかんだで行きたがってたろ、お前? この前色々あってオジャンになっちまったからなァ」 巳琴のそんな思わせ振りな言葉に、ピクリと眉を浮かせるフィリィ。 前髪を指先で少し摘まんで大きく深呼吸した彼女は、真っ直ぐに巳琴の目を凝視した。 「私の次の休み、いつか知ってる?」 「来月の10日と16日と22日と30日」 「……その内前三つは予定アリよ」 「んじゃ来月末だ、チケットはどっちが取る?」 巳琴はニカッを笑みを振り撒きながら乗り出した身を戻して両手を腰に当てる。 「前回はアンタが取ってくれてたのよね 今回は私が──」 「って言うと思ったわ、それじゃあ面白くねぇだろ 今回も私に持たせてくれや」 巳琴の自信ありげな発言にフィリィは珍しく困惑の表情、と言っても極々僅かに唇が開いた程度だが。
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