返してアイスクリーム

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更にフィリィの表情は移り変わった。 困惑から不服、万年ポーカーフェイスの彼女だが、巳琴の前ではコロコロとその景色が移り変わる。 数ミクロンだけ唇を尖らせ、シワも寄らない程に眉を寄せて妙な提案をぶつけた巳琴に対して、凍り付くような視線が鋭く突き刺さる。 「あーあー、そんな顔しなさんなメイドさん 前回は私にも落ち度はある いくらアキューに口添えされたからって、素直に旦那にチケット放り投げちまったのは私だ 買ったのも私だったけどな」 「だから仕方なかったんでしょ? あの親子の事なら、私は何も言えないわ」 「とは言えだ、私にだってメンツってもんがあるし、お前にもこの前の借りを返したいって気持ちがあるのも分かる それに関しちゃ、次のは『二人きり』って条件でチャラにさせてくれや」 「嫌って言ったら?」 「……お前そう言う遠回しに試す様な事言うの好きだよな 一応答えとくが、嫌なんて言わせねぇ 往復の脚に三食とデザートはお前の大好きな甘い氷菓子、あとは翌朝までベットでゴロゴロのオマケまで 何から何までお前の要望にゃ全部応えてやる 今の内にその翌日の有給申請しとけ」 パッと真顔に戻った彼女は納得したのか否か、小さく溜め息を吐く。 数秒遅れ、呆れた様に目を彼女から反らすと目の前の扉をノックした。 勝ち誇った様な表情を浮かべた巳琴は、そんな自らの欲望に振り回されたフィリィの僅かな動揺を知ってか知らずか、彼女の後ろに着いて部屋に侵入する準備を整える。 「お嬢様、頼まれていた物をお持ち致しました 失礼致します」 フィリィは鬼に揺らされた心をしっかりと平静に戻す様にハッキリとした声で自分の目的を口にした。 ──さて、彼女が仕事中に巳琴から話し掛けられたくない、と言っていたが、詰まる所、こう言う揺さぶりを平然と掛けてくるのが嫌だから、と言うのはもうお察しの事だろう。 巳琴はこう言う奴なのだ。 そう言い聞かせながら毎度毎度と調子を狂わされて来た彼女にとって、ある意味、巳琴は天敵なのである── 一方の巳琴であるが、平静を保とうとしているフィリィを後ろから眺めながら、胸ポケットに入っている煙草を取り出し、これまた上機嫌にそれを口に咥えていた。 そして、彼女が青い煙を吐き出す葉に火を点けるより早く、フィリィの言葉に応えた住人によって、扉はふわりと開けられた。
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