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芹那は、病院の談話室で缶コーヒーを飲んでいる由里のそばに歩み寄ると、
「流星さんと、話せましたか?」
と訊ねると、由里は缶コーヒーを両手で握りながら顔を上げて芹那を見た。
「芹那さん…。私は…、流星をこのまま、放ってなんかおけないわ…!」
「由里さん…」
「あんな流星を、見たくない。好きだったもの。和臣の代わりなんかじゃない。流星は流星よ。我儘なとこも、勝手なところも、大好きだった。なのに、あんなに元気なくて、寂しげな姿、見たくなかった…。和臣は、1人じゃない。人脈があるから、いつでも1人じゃない。私がいなくても、彼はこれからきっと生きていけるの。私は…流星のそばにいるわ」
由里はそう言って、両手に顔を伏せて泣き出してしまうと、芹那は由里の肩を掴んで、
「何ばかなこと言ってるの。それは、同情よ。愛情じゃないわ。勘違いしてる。それに、そんなんじゃ流星さんが感謝するわけないわ。戸川さんだって」
と必死に言うと、由里は頭を横に振った。
「芹那さん。どうか私の代わりに、和臣のそばにいてあげてほしい」
と言われて、芹那は返答に困惑した。
「それは…」
「もし、圭太さんが同じ目に合ったら?瀕死の傷を負って、悲しんで、辛そうに泣いてたら、あなたならどうする?放っておける?」
由里さんは唇を震わせながら言うと、芹那は目を丸くして言葉を失ってしまった。
*
俺は談話室の陰からその会話を聞いて、昔、美夜を取り戻そうとしたときのことを思い出した。
これからうまくいくと思う時、いつも何かしら邪魔が入って、結局恋は実らない。俺を選んでくれていたはずの瞳は、別の人を選ぶんだ。
そう思うと、俺は芹那に声を掛けることも出来ず黙って帰ってしまった。
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