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芹那は、その日帰ってこなかった。電話もメールも、LINEも来ない。
俺は玄関の内側で、壁にもたれかかって座り込んだ。頭を抱えて、泣きたくて膝に顔を埋めた。
芹那はきっと、由里さんの言葉を、気持ちを、受け入れるだろう。優しいから。戸川さんのそばにいることを、選ぶと思う。
それで、いい。
それでも、いいんだ。
芹那が、幸せになってくれるなら。
それで、いいんだ……。
なのに、なんでこんなに涙が出るんだろう。
頭では分かっているのに、納得できていないんだ。
芹那との幸せの日々を過ごしてしまったから、これから1人になると思うと、体が引きちぎられるような痛みが、全身を襲う。
あの笑顔を、他の誰かに取られるのか?
それで、本当にいいのか?
ドクン。
心臓が、一瞬高鳴った。
そこに、スマホの着信音が響いて、俺は我に返った。スマホをポケットから取り出すと、電話をかけてきたのは滋だった。
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