last episode 夢のカケラ

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「滋…?なんだよ。もう夜遅いだろ」 応答ボタンを押してスマホを左手で持って耳元に当てると、俺はため息混じりに言った。 「いや、なんか、美夜がさ。嫌な予感するって言って、お前に電話しろっつーから」 「嫌な予感て…」 「昼間、芹那さんに会って、なんか話したみたいだよ。 それで、圭太のことが心配になったんだって」 滋が言うと、俺はまた右手で頭を抱えて微かに笑った。 「美夜に自分で連絡しろって言ったんだけど、男同士の方がいいだろうって。んで、俺が電話したんだ。直接そっちに行ってもよかったんだけど、遅いし、美夜を1人に出来ないしね」 「で、なんだよ」 俺はイライラして舌打ちすると、 「お前さ。芹那さんが戸川さんのところに戻るって思ってないか?」 と滋が言うと、俺はぎくっとした。 「…俺は、自分から身を引くよ」 「は?どうして、身を引くんだ?」 滋が不思議そうに言うと、俺はきつく目を閉じた。 「芹那は、迷って、選べなくなるかもしれない。それなら、俺が先に決断すればいいんだろ?いいよ。芹那は、戸川先生を選んでいいんだ。俺は、1人なんて慣れてる。寂しい…なんて、慣れてるんだ」 強がりの言葉が、惨めな口から出てくる。そんなのは、全部嘘だ。ひとりなんて、慣れてもないないくせに。寂しくて、たまらないくせに。 「圭太。俺も、その気持ちよくわかる。昔、そうだった。圭太がいるロンドンに美夜が一人で行った時、俺も同じ気持ちだったよ。もしかしたら、美夜も同じ気持ちでいてくれたんじゃないかって思って、うまくいくと思ったのに、突然ロンドンから帰ってきた圭太に取られるって思った。争いたくないから、大人ぶって、身を引いた。俺が我慢することで、大切な人が幸せになるならって思ってた…。でもさ、そしたら、祐と雪子に思い切り怒られたんだ。奪え…!って。我儘でもなんでも、ぶつかって、奪ってこいって。圭太のことを信用して、本音をぶつけてこいって俺のことをぶん殴ったんだよ。お前もさ、ロンドンに美夜を迎えにこいって言ってきたよね。あの時、みんなに背中を押されて、美夜を迎えに行った。間に合って、良かったよ。圭太、今度は俺がお前の背中を押す番だ。恐れずに、ぶつかってこい。いいか?離したくないなら、何がなんでも離しちゃ駄目だ。また失ったら怖い?怖いなら、失う前に繋いどけ。二人の縁を。今度こそ、きつく結ぶんだ」
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