第三章

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「えー俺、今日はカレーの気分なんだけど」  尚樹が気のない返事をしても、里中はまるで構わずに急かすようにぐいぐいと尚樹の腕を揺する。 「カレーなんていつでも食えるだろっ! 今日は明太コロッケにしとけって! まじオススメなんだから!」 「里中、明太子ごときに必死になりすぎ。まじうざい」 「新田こそ、明太子なめんなよ!」  そんな言い合いを繰り広げながらも、結局はしつこく腕を引く里中にひきずられるように、尚樹は不承不承ついていった。ぼそりと「じゃれつく子犬とそれを邪険に扱う子猫にしか見えねぇな」と呟いた新堀もまた、苦笑を噛み殺しながら後に続く。  学食に着くと里中は「あっ、中屋敷ー!」と手をぶんぶん振りながら駆け出していった。尚樹にもすぐにわかった。だらけた学生ばかりの中で、きちんと背筋を伸ばす凜とした姿はとても目立つ。四人掛けの丸テーブルに一人で陣取って、すでに昼食をとり始めているのが中屋敷だ。  中屋敷は経済学部の学生で、尚樹とは直接の接点はなかったが、里中や新堀と高校時代からの友人らしく顔を合わせる機会が多かった。 「わっ、やっぱ明太コロッケうまそう!」  里中が興奮気味に皿を覗き込んでも特に気にするでもなく悠然と箸を動かし続ける中屋敷に、尚樹は尊敬の念すら抱いてしまう。 「あぁ。早く行かないとなくなるぞ」 「新田、新堀、ほら、急いで! 明太コロッケ!」  里中は空いた椅子の背にリュックを掛けると、すぐさまカウンターにダッシュしていった。「ったく。サトはいつまでたってもお子様だよな」などと言いながら新堀も里中の後を追っていく。 「荷物はちゃんと見ておいてやるから、新田も行って来い」 「あ、うん。ありがと」  一人取り残されぽかんとしていたが、中屋敷に促され尚樹もカウンターに向かった。
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