第三章

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 それぞれの食事を無事確保すると、四人でテーブルを囲んだ。結局、尚樹は里中の激しい抗議を押し切りカレーを選択した。 「でさ、この前話してたゲームなんだけどさ。俺、ついに昨日買っちゃったから今日やってみない?」  里中が明太コロッケを頬張りながら話を振る。 「サト、どうせ負けるくせに懲りねぇよなぁ。よし、今日も俺がコテンパンにしてやるよ」 「ゲームもいいが、この前みたいに徹夜はごめんだぞ」 「新田も、来るよな?」  当然のように承諾する新堀と中屋敷。里中は当然のように尚樹も誘う。なんだか空気が読めていないようで非常に断りづらい状況だが、尚樹は顔の前で手刀を切った。 「ごめん。俺、パス。バイトあるし」  頭には、大沢の事が浮かんでいた。また来ると言っていたし、それが今日かもしれない。 「花屋の?」 「うん」 「えー? 一日くらい休んじゃえばいいじゃん」 「サト、新田は仕事に責任を持ってるんだ。あんまりワガママを言うもんじゃない」 「なに、新田。もしかして、その花屋に狙ってるコでもいる?」  中屋敷が里中を窘め、新堀が尚樹をからかう。この構図もすでにパターン化しつつある。 「そんなんじゃねぇよ」  大沢の事を言われているようで、尚樹は真っ赤になって否定した。 「そっかぁ。ちぇーっ、残念だな。じゃ、今度は絶対一緒に遊ぼうな」 「ん、今度な」  まるで小学生のような里中の口ぶりに思わず苦笑が漏れる。  納得した三人が、再びゲームの話で盛り上がり始めたのを見届けてから尚樹はひっそりと息を吐き、カレーを口に運んだ。カレーならなんとか食べられるかと思ったがやはりあまり食欲は湧かなかった。  三人は同じ高校の出身でとても仲が良い。尚樹は大学に入ってから声を掛けられ、仲間に加えてもらった。尚樹にとっては大学での唯一の交友関係だ。全く性格の違う三人だが、それぞれにとても気が良くて、尚樹も安心してその中に身を置いておくことができた。ただ、こんな時は三人の世界ができあがっていて、自分が部外者のような気がしてしまう。  ゆるい繋がりは束縛されない分、孤独だった。
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