第三章

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「今日も、バラの花束ですか?」  動揺する尚樹に気づかず、にこにこと三山が話しかける。 「いや、今日は会社用じゃなくて自分用なんです。野郎だけの部屋は殺風景なんで、花の一輪でもあったら気持ちも安らぐかなと思って」 「あらぁ、エラい。そんな風にさりげなく花を部屋に飾ってる男の人って、なかなかポイント高いんですよぉ」  三山は昨日の佐倉と尚樹の話は聞いていなかったらしい。大沢がヤクザかもしれないと知っていたらこうはいかないだろう。普段尚樹と接する態度とは違い、なんだか女の子らしく振舞っているし声も一トーン高い。イケメンに弱いのだ。  大沢のほうも、まんざらでもない様子でにこやかに話している。 (こっちは昨日から真剣に悩んでるのに、お気楽に女の子とおしゃべりかよ。急に現れて、人の頭の中ぐちゃぐちゃにしておいて。人の気も知らないで――)  じりじりとした苛立ちが腹の底で湧き上がり、気づけば尚樹は大沢の腕を掴んでいた。 「ちょっと、来いよ」 「えっ、新田くん?」 「すみません、すぐ戻ります!」  驚く三山に断りを入れてから、大沢の腕を引いて外に出た。そのままずんずんと歩き、ビルとビルの合間の狭い路地に身体を滑り込ませる。 「尚樹? どうしたんだ急に」 「大沢。お前、ヤクザなのか?」  くるりと振り返り、まっすぐに大沢の目を見て尚樹は単刀直入に問いかけた。すると、大沢の顔からさっと表情が消えた。
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