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いきなり強い力で壁に押し付けられ、尚樹は狼狽えた。鋭い視線に射すくめられ身動きができない。
「おおさ、んっ……んん!」
あっと思う間に、唇を塞がれていた。強引に歯列を割って舌が押し入ってくる。熱くて柔らかい舌に口腔内を蹂躙され息苦しさと驚きで膝が震える。やっとの思いで大沢を突き飛ばすと、尚樹はぐいと唇を手の甲で拭った。息が乱れる。
「なんで……、なんで、こんな事……っ!」
「憶えてるよな、はっきりと。忘れたとは言わせない。なかったことにするつもりだったか?」
大沢が何のことを言っているのか、言われなくてもすでに思い出していた。今の強引な行為と、あの日の光景が重なる。
「俺の気持ちはあの時と何も変わってない。お前の事を単なる友達だとは思えない」
「大沢……!」
「……悪かったな。せっかく忘れかけてたのに引っ掻き回すようなことして。もうここへは来ないから安心しろ」
大沢はぽつりと零すと、踵を返し歓楽街の雑踏へと消えていった。尚樹は震える自分自身の身体を抱きしめ、それを呆然と見送るしかなかった。
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