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「場所は教室、時間は夕暮れ時、相手は同級生、味はレモン味。いたってフツーですよー」
じわじわと責められるよりは一気にカタをつけようと、尚樹は自分から軽い調子で暴露した。フツーでない部分も一部あるがそれは言わないでおく。とにかく、とっととこの話題を終わらせてしまいたかった。
「あれっ? 新田くんって、たしか高校は男子校だったとか言ってなかったっけ? 教室って……?」
(しまった!)
早く話を終わらせたくて躍起になったばかりに、そこまで気を回す余裕がなかった。
「あっ、いや! それはえぇ、っと」
一見ぽやんとした不思議系女子だが、三山は意外と鋭い。ピンク色のセルフレームの眼鏡の奥で瞳を胡乱げに細め、しどもどと口ごもる尚樹の顔を窺っている。何か上手く切り抜ける方法はないかと焦れば焦るほど、頭の中ではあの日の光景がぐるぐると再生される。
「へぇ、あれが初めてだったんだ」
いきなり背後からどこか聞き覚えのある低い声が響き、尚樹はびくりと身をすくませた。ゆっくりと振り返るとそこには忘れるはずのない男が立っていた。すらりとした長身。それに見合った長い手足。涼しげな目元と少し皮肉っぽく口角があがった唇。当時とまるで変わっていない。
「お、おま、お前っ……!?」
「あら、お友達?」
突然の男の登場にも三山は慌てることなく、にこりと顔を傾ける。
「ちがっ、いや違わないっていうか、こ、こいつは」
「高校ん時のツレです。だから、こいつのファーストキスもよぉく知ってますよ」
「わっ! ま、待てっ、大沢!」
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