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「新田ーっ」
またしても、唐突に背中へ圧力を加えられ「ぐえっ」と変な声が漏れた。
顔を上げると、案の定里中がにこにこと笑っている。
「ほい、明太子プリッツ!」
「お前なぁ……」
ずいっと目の前に赤い粒々が散りばめられたプリッツを差し出され、尚樹は脱力した。今日は新堀の姿はなく、かわりに中屋敷が後ろに佇んでいる。
「中屋敷ぃ……」
「悪いな、新田。止めようとしたんだが間に合わなかった」
本当にすまなさそうに眉を曇らせた中屋敷にそれ以上は何も言えない。
「九州限定だぞ、ありがたくよく味わって食え」
二人の会話などもろともせず、里中はぐりぐりと尚樹の口にプリッツをねじ込もうとしている。
「むぐっ、ちょっ……、里中!」
強引な里中のやり方にさすがに腹が立ち声を荒げた。
「サト、そこら辺にしておけ」
中屋敷が里中を後ろから羽交い絞めにして尚樹から引き剥がしてくれなかったら、突き飛ばしていたかもしれない。
「だって、ウマいもん食べたらちょっとは元気出るだろ?」
唇を尖らせてぶすくれる里中。
「こいつなりに新田の事元気付けようとしてるんだ、許してやってくれ」
中屋敷の言葉にひゅるひゅると怒りが収まり、かわりに自分がいかに落ち込んだ姿を晒していたのかに気づいた。
「ごめん。俺、心配かけてたんだな」
もしかしたら、昨日急に皆でゲームをしようなどと言い出したのも、尚樹を気遣って励ましてくれようとしていたのだろうか。
「頼りになんないかもしれないけどさ、友達なのに何も言ってもらえないのって悲しいもんだぞ。水臭いじゃん」
里中は拗ねたようにぷいっと横を向いた。中屋敷も横で少し寂しそうに微笑している。
「ん、もうちょっと頑張ってみて、どうにもならなそうだったら泣き言聞いてもらうかも」
二人のおかげで少しだけ、力が湧いてきた。尚樹は勇気を出して、もう一度自分から行動を起こしてみようと決心した。
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