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いろいろな難局が一気に押し寄せてきて、尚樹は激しく混乱した。とりあえず大沢の口をなんとかして塞がなければ、と何がなんだか訳がわからないまま、勢いよく大沢の身体にタックルをかました。
だが、尚樹が全体重をかけて突っ込んだにもかかわらず大沢の身体はびくともしなかった。細いようでいてきちんと鍛えられている。そんなところもあの頃のままだ。
「お、大沢……!」
「あれは、確か文化祭の時だったよな? あの日だけは近隣の住民とか他校生とかに開放されて人でごった返してたっけ」
「え」
あの日は、文化祭でもなければ人でごった返してもいなかった。いつも通りの金曜日。いつも通りの放課後だった。間違えるはずがない。
呆気に取られぽかんと見上げる尚樹に、大沢はにやりと口の端をあげて見せた。尚樹が答えに窮しているのを察して、咄嗟にもっともらしい嘘をつき助け舟を出してくれたらしい。
「あー、なるほどね。イベントの時ってなんか気分が高揚して、そういう雰囲気になっちゃうよね。いいなぁ、キラキラの青春って感じで!」
一人で勝手に盛り上がりうっとりしている三山を尻目に、大沢は目を細め尚樹を見下ろした。
「まさか、尚樹のほうから再会の抱擁をしてくれるとはな」
耳元に唇を近づけるようにして囁かれ、尚樹は慌てて大沢の腰にしがみついていた腕を離した。自分のあさはかな行動に顔がかぁっと熱くなる。
「抱擁じゃねぇよ! っていうか、お前、なんでここにいるんだよっ」
「あ? ここ花屋だろ? 花買いに来たに決まってんじゃねぇか」
「あらやだ、お客様だったのね。いらっしゃいませぇ」
三山ははっと気がついたようにハサミを置き、営業用の声に切り替えた。
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