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「あのおんな……ッ!」  昼休み、トイレの洗面台を叩きつけて、蓮は呻いた。もちろん先客がいないことを確認してからだが。 「なんっだあの厭味な態度! 俺だって広報なんて来たくて来たわけじゃねえっつうの!」  むしろ、それをわかっているからの言葉なんだろう。バイトの仕事発言を聞かれていたのは自分が迂闊だったとして、あの、意地の悪い口調。歪めた口元のしわがそのまま張り付いて、一生消えなきゃいい、と思わず呪いをかける。  あらためて、どうして異動なんて……という思いに襲われる。もちろんそういうシーズンではあった。だけど突然すぎる。特別ミスだってなかったはずだ。そうなるともう、思い当たる節はひとつしかない。  もしかして……部長にオメガだってことがばれた?  近年属性チェックは中学二年生で行われることになっていて、もちろん蓮も受けた。父親がアルファだったし、子どもの頃からさすがアルファの子どもは可愛いわね、とおばさま方に言われまくって育ったのだ。成績も優秀で、スポーツも出来た。     
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