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 オメガなのだと診断が出たあとも、それは変わらなかったし、努力もした。幸い蓮の成長に合わせるように属性差別反対の流れは強くなり、属性を訊ねるのは失礼、ということになったから、その風潮に乗って今までうまく隠し通しているつもりだった。  人事に属性は影響しない、と一流企業は口を揃える。だが部長クラスの思惑が実際どこまで及ぶのか、ヒラの蓮にはどんなものかわからないのもまた事実だった。極秘のはずの社員の情報を見られるのかもしれないし、実は差別主義者だったとしても表向きはわからない。  部長には、気に入られていると思っていた。母が死んだあとも、気にかけてくれているように見えたのに。  しょせんオメガはオメガ、なのか。それこそサビ残やセクハラ同様、差別は永遠になくならないものなのかもしれない。 「……てて」  午後からまた加賀美のいる部屋に戻らねばならないと考えたからか、腹がちりちりと痛んだ。  催して、個室に入る。思えば個室のほうに入るのも久し振りな気がする。葬儀、異動と立て続けに生活に変化があって、内臓も仕事をセーブしていたのかもしれない。  なんだか違和感を感じると思いながら用を足し、流すために立ち上がったときだ。 「――?」  真っ赤に染まった便器に思わず声を上げたのは。 「ぎゃーーーーーーーーー!!」
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