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 検索窓に『痔』『名医』『おすすめ』と入力する。デリケートな部分なだけに、いいかげんな医者にかかりたくなかったし、知り合いに知られたくもない。もちろんこの検索履歴はあとで消す。念入りに消す。  検索している間にも、どんどん腹が張ってくるし、あらぬところは痛くなってくるような気がした。こんな私用で会社のパソコンを使っていることが後ろめたくもあり、ディスプレイの上にかがみ込むようにして高速でスクロールさせると、ひとつの記事に目が留まった。 『都心で通いやすいが一本裏手にあって、ひっそりしている』 『専門医だけあって腕は確か』 『呼び出しも予約番号のみで名前は呼ばないなどの配慮あり。やっぱり総合病院より専門医が安心です』 『やさしい年配の先生です』 『腕はもちろん、先生の穏やかな口調が癒やし。男の俺でも行くまではちょっと泣きそうだったから、怒られるんじゃなくて今までよく我慢したねって言われて泣きそうだった。つか泣いた』  そうなのか。ふむふむと読み込んでいくと、会社からはひとつ隣の駅、なんなら歩いてでも行ける距離だった。万が一にも知り合いに会わぬよう遠いところがいいかとも思ったが、いろいろと調べているうちに尻の痛みは増している。ひっそりしている、という書き込みを信じ、ここへ行くことにした。  ――よし、定時だ。     
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