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 電話のデイスプレイに表示されている時計が退社時刻を指したのを確認し、立ち上がった。気持ち的には颯爽と立ち上がったつもりだったが、じっさいにはそろりそろりといったところだ。どうかすると、よせばいいのに思わず見てしまった患部写真が脳裏にちらつく。  躓きでもしようものなら見てしまった写真のように傷ついた内部に響いてしまうような気がして、足元ばかり見てしまった。 「つ、次から気をつけてくれればいいから」  去り際、加賀美がそんなことを言っていたような気もするが、頭文字D(心の中ですら痔と何度も口にする屈辱に堪えられず、こう呼ぶことにした)の様子ばかりが気になってよく聞こえなかった。
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