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 更新しとけよ! と心の中で罵るが、そもそも善意の有志による情報サイトだ。漏れがあるのは仕方ない。  表情こそ見えないものの、体つきの感じからして医師はまだ若いようだった。ことによると自分と同世代だろう。おそらくは仕事柄、そういう口調を心がけているのだろうが、この男、ぱっとしない見栄えの割に落ちついた声がいい。  もっとはっきり言うと、好きな声だ。  そんな医者にデリケートな病をどうこうされるのかと思うと、思わず腰が浮きかけた。が、医師は淡々と問診を開始してしまう。 「痛みを最初に感じたのはいつ頃ですか」  やむなく、そ……っと腰かけ直した。 「えっと、ここ二、三日……? でも違和感はずっとあったのかもしれないです」  キーボードに添えられていた腕の甲の傷がぴくりと動いて、もっさり癖毛がこっちを向く。「しれない?」 「ちょっと……身内の不幸があってばたばたしていたので……あと仕事内容が変わったりで……自分の体調になんてかまってられなかったといいますか」 「……」  医師は、無言のままカルテを打ち込んでいく。都心にありながら中庭もある医院の中は静かで、カタカタと響くその音は、どこかいらだっているようにも思えた。体調になんてかまってられなかった、の部分が職業柄気に障っただろうか?     
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