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 蓮のプライベートの携帯には、取引先本人の他に、彼らの妻と子供の誕生日も余すことなく登録されている。もちろんそれも地道なリサーチでかき集めたものだ。GNPがアジアナンバーワンでなくなった今でも、日本製のおもちゃや化粧品は子供や女性に人気がある。折に触れ「奥様がお好きとうかがったので……」と差し入れすることを忘れたことはなかった。 それを「やりすぎ」と陰口を叩く同僚がいたのは知っている。  快感だった。  同期のほとんどは学生時代の成績も優秀、容姿も端麗な奴らだ。属性を詮索するまでもなくわかる。どうせアルファだ。そのアルファの連中に嫉まれるなんて、蓮にとっては望むところでしかない。  ざまーみろ。おまえらが持って生まれた物にあぐらかいてる間に出し抜いてやったぜ。  そんなふうだし、あまり深い付き合いになってオメガであることがバレても面倒なので、蓮には今まで本当に親しい友人というものは、いたことがない。  もちろん恋人もだ。  そんなことよりも、とにかくアルファに負けずに稼いで稼いで、母親に楽をさせてやりたかった。駅直結のタワマンを若くして購入できたのも、そうやって築いてきた実績のおかげだった。中国の取引先である会社の社長が投資用にいくつか所持しているものを回してもらえたのだ。  とにかく、アルファが幅をきかせる一部上場企業の中でがむしゃらに仕事をしてきたことは、蓮にとって誇りだった。少しぐらいの体調不良なんて、かまっていられない。  こんな都心に昔からのおうちがある人とは違うんですよ、先生。  少し意地悪な気持ちでもっさりした医者を見据える。     
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