1

25/34
前へ
/34ページ
次へ
「牛丼、あるじゃないですか。ほんとばたばたしてたんで最近はあればっかりで……ふつうの牛丼だと続くと甘くて飽きるし、あれ、白菜だから、野菜も普通より摂れるからいいかなって。発酵食品だし?」  もちろん母が生きていた頃に作ってくれていた食事に比べれば、よくないことはわかっている。けれども、飯のことなど考えたくない、でも喰わなきゃもたない、ああめんどくせえ……と思いながら帰宅すると目の前にあるのが牛丼屋というものだ。だいたいにおいて蓮はからい食べ物が好きだった。普通の食事より、喰った、という感じがするのがいい。  それから仕事内容、睡眠時間、出血したときの詳しい状況などを訊かれ、カルテ入力は終わった。なんとなく一仕事終えたような気分だ。 「じゃあ、ちょっとみましょうか」 「え?」  思わず声が出てしまった。見る? ――ああ、診るか。それにしたって。 「えっと、今は薬だけとか、注射だけでって……」  ネットで見たんですけど、という声は小さくなった。恐ろしくて詳細に調べて来たということを知られるのは恥ずかしいような気がした。  医者は、こんどはあからさまにため息をつく。  ホスピタリティはどこだよ。 「痔核(いぼ痔)か裂肛(切れ痔)か痔ろう(中の痔)かもわからなければ治療方針の決めようもないだろう」  それはそうか―― 「てか、いま、だろうって」  言った気がする。いつの間にかタメ語じゃねーかこの野郎。     
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4285人が本棚に入れています
本棚に追加