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「――」  お、奥!?  心の声はかろうじて押しとどめ、促されるまま体を起こした。びびっていると思われたくなかった。 「下は脱いで、足を広げる。そのまま支えて」 「え、」 「あ?」  訊ね返されると、かあっと顔が熱くなった。  だってこの体位――じゃなかった体勢、あんまりにもあんまり、じゃないか?  診察、これはただの診察だ。ばくばくしてやまない心臓にそう言い聞かせながら足を広げた。配慮なのか看護師はいつの間にかいなくなっていて、前のほうには医師がガーゼをかけてくれるが、無駄な足掻き感が凄い。なんだかもうすべてが屈辱的だった。  なんだこれ。なんの拷問なんだこれ。なんでこんな目に遭ってんだ。この俺が。この俺が!?  麻酔はちゃんと効いているらしい。いつの間にか肛門鏡が入り込んでいて、モニタには再びぬめる内部が映し出されていた。 「奥まで入った」  だから、いちいちそのいい声で――いやこれ、言わないと医療行為的にはまずいのか? 「ここだ。赤くなってるの、わかるか」  声も発せず、ただこくこくと頷いた。拍子、涙が目の縁にぶわっとにじみ出る。自分でも決壊寸前なのがわかっていなかった。     
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