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 自身もアルファである彼女はアルファの男性と結婚したのだが長く続かず、生家に戻ると、そこでまるで本当の娘であるかのように愛されていたオメガの母に嫉妬した、らしい。  幼い蓮にはわからない陰湿ないじめ。積み重なったそれは徐々に母の顔から穏やかな笑顔を奪っていった。  大人たちの間で幾度も話し合いが持たれ、結局母は家を出た。  それから生活は一変する。広い庭どころか塀の向こうはすぐ隣のアパートという環境で、母のパートの収入だけに頼る暮らし。それでも、おそらくは父に似た、飛び抜けた容姿の蓮を近所のひとたちはみんな可愛がってくれた。  色素の薄い髪と瞳、華奢な輪郭。それでいてぷっくり丸みを持った頬。笑うときゅっとえくぼが出来るのがまた可愛らしいと。  だから、可愛がってくれるおばさまには笑顔を出し惜しみしないよう努めた。間違ってもおばさん、なんて呼ばない。ちゃんと名前にさん付けだ。ときには「しゃん」なんて噛んでみたりしながら。  高校からは近所ではなく都心の進学校に通った。大学の授業料は奨学金とバイトでまかなった。仕事はエネルギー関連商社の営業で、恵まれた容姿と、子どもの頃から生きるために身につけた処世術とで成績は順調だ。     
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