1.川村強志

10/27
前へ
/79ページ
次へ
 自分で言うのもアレだが、オレは人生において容姿を褒められた数はかなり多い方だと思う。でも、それは持って生まれてきたものであり、オレの努力とは全く関係のないことだから、褒められてもなんと返せばよいのやらというのが正直な気持ちである。そういう意味では、勉強ができてすごいとか、ギターが上手でかっこいいとか、自分の努力を認められる方が喜びも数倍だろうなと思うことはある。だけど、そうは言っても「褒められる」ということはやっぱり嬉しいものだ。しかも美人からの大袈裟ながらもストレートな言葉で。喜びは一.五倍増、いやそれ以上かもしれない。 『いやいや、どうも。  実物はもっとひどいもんですよ。  オレも昨日、レイカさんの写真見せて貰いました。超美人ですよね。こちらもびっくりでした。  世の中の男ども、ほっとくなんてどうかしてます (笑)』  浮かれた気分を抑えるのに苦労したが、一言もお世辞は書いていないつもりだ。すこし褒めすぎかとも思いつつも、「バツニ女を慰める」という役職上、やはりこれくらいわざとらしくテンションを上げていかないといけない。  送信すると今度は即返信が来て、レイカの方も悪い気はしていないように思えた。 『えー、だったら、一度お茶して下さいよ!  ってウソウソ、奥様いらっしゃるし……無理なのはわかってまーす(涙)  ちょっと言ってみたかっただけです♪  美人だなんて誰も言ってくれませんよ。そんなお世辞言ってくれるの、川村さんだけです。ありがとうございます!』  微妙な軽さを加えることで「この女、イケそうかも」と思わせる。もちろん、あの容姿が世間ではどんな評価なのか、自身でわかった上での気軽な誘いであり、謙遜である。テクニックだとわかっていても男心をくすぐられまくり、引きずり込まれてしまう。それでも、純粋にメールだけのやりとりならばこちらも警戒して一歩引いた目で見るのだが、広田の友人として身元がはっきりしていること、そしてあの写真を見せられた後だからなおさらだ。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

679人が本棚に入れています
本棚に追加