1.川村強志

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 駅前のコーヒーショップで、六時に待ち合わせ。駅前なら人も多いし、男女二人の組み合わせも目立たない。会社から駅まではバスを使っての移動だ。夕方だし混雑して遅くなったらいけないと思い、仕事が終わってすぐに会社を出たのだが、意外とスムーズに車が流れていたので、時計の針が五時四十五分に届く前にはもう駅に着いてしまっていた。  少し早すぎたか。なんだか張り切っているみたいで格好悪いが、遅れるよりいいだろう。携帯の画面に目を落とすフリをするが五秒ともたず、用無しになった携帯をすぐさまポケットにしまいこんだ。  一度、駅ビルに入るコンビニに向かい、クールミントのガムを買う。一粒放り込んで、再びコーヒーショップに向かうと、外から見えるカウンター席でたたずむ女性が目に入り、そしてすぐに釘付けになった。  あの人はレイカだ。間違いない。  髪の雰囲気や格好は写真で見たのとは少し違っていたけれど、絶対にそうだ。  実物のレイカはオレの想像をはるかに超えていた。ナンパ目的の男が軽い気持ちでヘラヘラと声を掛けられるようなレベルではない。華やかで気高そうなその形貌は、軽い誘いが成功するようにはとても見えず、下手すると惨めな気持ちにさえさせられてしまいそうだった。  レイカがすぐそこにいるというのに、赤信号に長い間足止めされ、イライラとしてくる。青に変わった瞬間、即座に駆け出した。数歩進んだ頃に、窓越しのレイカも気づいたらしく、こちらを見て立ち上がった。自動ドアが空いて店内に入ると目が合ったので、小さく頭を下げた。
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