679人が本棚に入れています
本棚に追加
「……まあ、普通の女性ですよ」
ここはこんな風に言うしかあるまい。
「川村さんみたいな人と結婚できて、奥様は幸せですね」
レイカは少しだけ頬を持ち上げ、上品に笑った。口角の角度、目の細め具合。何をとってもあまりに美しい。小悪魔レイカはトライデントなんか持たなくても素手で勝負できる。きっと生まれながらにして男共を捉える能力が備わっているのだ。
ダメだ、ダメだ。このままだとレイカのペースにはまってしまう。わき上がって来る邪念を急いでかき消すかのように、あえて真奈美の話題を続けた。
「そういえばもうすぐ結婚記念日なんですけど、もう三度目にもなると、何をあげたらいいのかって、正直困ってるんです。女性ってどんなものが嬉しいんでしょうね」
くすぶっていた火種の鎮火には成功したが、途端に目の前のレイカの眉尻が下がるのがわかった。やっぱり、長々と妻の話をされるのもおもしろくないか。
「あたしバツニだけど、どっちの男性にも一度だって結婚記念日にプレゼントなんて貰ったことなかったんですよ。いいなあ!」
少し笑顔を作ってはいるけれど、沈んだ顔のままだ。そりゃそうだ。バツニの人を前に、結婚記念日の話だなんて。広田並の無神経野郎か、オレは。
「すみません……」
「いえ、全然。そんな人だったからどっちとも離婚になっちゃったんですもの」
レイカを妻に迎えた男というのは、どんなヤツだったんだろう。屈強な男が好きって感じでもないし……ダメな男にはまるって風にも見えない。例え一瞬でも、レイカを妻にできるなんて幸せだっただろうな。
「……それより、奥様へのプレゼントですよね。ちなみに、奥様のお誕生日っていつですか?」
「二月です」
二月二十二日。忘れないようにと真奈美の誕生日と合わせて結婚記念日に設定したけれど、二がこれだけ並ぶと鳥頭のオレでも絶対に忘れない。
最初のコメントを投稿しよう!