1.川村強志

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 早速、翌日の昼休みに店へ向かう。ネットで予め選んできた旨伝えると、店頭の在庫を確認すると言われ、椅子に座らされた。 「どちらも在庫ございました。ラッピングはいかがいたしますか?」  愛想のいい黒髪の店員が微笑む。 「お願いします」 「こちら……二つは別々にお包みしますか?」 「あ……はい。妻と……妹の、なんです」  聞かれてもいないのに、言い訳がましかったか。まあそんなの嘘だって、店側もある程度わかってるんだろうけれど。  店から会社まではそれほど遠くなかったが、紙袋を抱えているところを広田にだけは見られないようにとできるだけ急いだ。ランチになった途端、隣の部署のヤツと「トンカツを食べに行く」と騒いでいたからトンカツ屋の前は小走りで駆け抜けたが、結局社員の誰にも会わず会社に滑り込むことができた。  デスクに戻り、もう一度注意深く周りを確認してから、引き出し奥に丁重に保管した。重要な任務からようやく解放されたかのように肩の力がすっと抜けた瞬間だった。ふうっと大きく息を吐き出し、コンビニで買ったおにぎりでやっつけの昼食を取る。  どちらも、喜んでくれるといいけれど。それぞれの反応を想像すると、まだ手渡してもいないのに達成感のようなものがこみ上げて来て、だらしなく頬を緩めた。
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