1.川村強志

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 レイカとのメールは会った翌日からもダラダラと続いた。頻繁にやりとりするわけでもなく、また内容もほとんどどうでも良いことばかりだったのだが、次の週の木曜日にまた会おうという約束に関しては割とすぐに交わされていた。  その日が近づくにつれ、子どもの頃の遠足前に似たワクワクとした気持ちが身体中を駆け巡り、どこか上の空で仕事も手につかない日々が続いていた。  だから、木曜の朝はいつもより早く起きてしまうのも当然だった。まさに、遠足当日のガキと同じだ。髪のセットも本当なら念入りにしたかったが、真奈美に浮かれていることを気づかれるわけにはいかない。あくまでいつも通りの仕上げを心がける。  ネクタイは一番気に入っているものを自然と手にしていた。ショップの店員に歯の浮くようなセールストークで勧められた、グレー地に細い濃紺のラインが入ったレジメンタルのネクタイだ。褒め攻勢を掛けられ、ついその気になって一緒に購入したシャツも併せて身につける。我ながら、一番よく似合うと思う。気に入っているので、次にレイカと会う時はこれだと予め決めてあった。素敵な異性に少しでもよく見られたいと思うのは女も男も一緒なのだ。着替えを終えて、仕上がりをチェックする。鏡の中のオレはすこぶる血色がいい。  今日は待ち合わせ場所をホテルのティーラウンジに指定した。ガサガサとした雰囲気はなく、客層も前回とは全く違うから人の目を気にする必要もない。  静かに流れる時間を肌で感じ、優雅な気分に浸りながら、目の前のレイカにさりげなく視線を向ける。相変わらず今日も完璧だ。カップを持つ姿、ふかふかとしたソファに腰掛けていてもしゃきっと伸びた背筋。スカートから伸びる白くてすらりとした脚。その美しさは、凝視しなくとも一瞬目に取り込むだけで十分インプットされる。
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