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「ねっ、いいでしょ? メールに付き合うくらいでいいから。奥さんにわかんないように、前に教えてもらったフリーアドレスでやればいいじゃん」
同期入社で顔を合わせる機会が多く、何度目かの研修の後でアドレスを交換しようと言われ、同期だから一応そのくらいはしておいた方がいいかと思って教えていたのだが、そんなことすっかり忘れていた。軽はずみな自分の行動を心底後悔した。
「……やだよ」
「って言うか、もう教えちゃったわ。たぶん、今日中にメールくるんじゃない?」
広田は悪びれる様子もなく、あっけらかんとしている。いくらなんでもさすがに頭に来た。オレは、派手な音を立てて雑誌を机に放り投げた。
「おまえ何してんの? 人のアドレス勝手に教えるとか、頭おかしいだろ」
「なによ。どうせフリーのアドレスじゃん。そもそも、奥さんに内緒でそんなアドレス持ってる時点でどうなの? それに、女のあたしにもう教えちゃってるのに、その子にも教えたところで大して変わらないでしょ」
「内緒じゃなくて、余計な心配掛けないようにだろ。夫婦にはいろいろあるんだよ。おまえにはわからないだろうけど」
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