マイ・スイート・ホーム

3/12
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「猫って、身体のわりにでかいのするのな」  つんと高い鼻をつまみながら、男がぼそりとつぶやいた。 「そうだよ、一丁前なんだから。あ、翡翠(ひすい)くん、暇なんだったら玉之助のトイレ掃除しておいて。きれいにね。猫はきれい好きなの」  男が、返事をするどころか背後を振り返るのも待たずに、晶子ちゃんは寝室へとバタバタと消えていった。  のっそりと戻された男の視線と、僕の視線がかち合う。  冗談じゃない、どこの馬の骨に僕が出したものを処理されるなんて!  プライバシーを丸裸にされるみたいな気分じゃないか!  だいたい、なんだよ翡翠って、変な名前!  トイレの前で、毛を逆立てて拒絶をあらわにしていたのに、男は鼻をつまんだまま僕の首根っこをひょいとつかむと、ほいっと横に放り投げた。  この家では僕のほうがずっと先輩なのに、そんなぞんざいな扱い方しやがって。  やっぱり嫌いだ。  翡翠がこの家に連れてこられてきた時、僕は眠っていた。  晶子ちゃんが呑んで帰りが遅いのは毎度のことなので、僕はほとんど寝て待っていることが多い。  その日も、僕は電源の入っていないコタツの中でうとうととまどろんでいて、玄関の鍵が解かれる音でぼんやりと目覚めた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!