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「猫って、身体のわりにでかいのするのな」
つんと高い鼻をつまみながら、男がぼそりとつぶやいた。
「そうだよ、一丁前なんだから。あ、翡翠くん、暇なんだったら玉之助のトイレ掃除しておいて。きれいにね。猫はきれい好きなの」
男が、返事をするどころか背後を振り返るのも待たずに、晶子ちゃんは寝室へとバタバタと消えていった。
のっそりと戻された男の視線と、僕の視線がかち合う。
冗談じゃない、どこの馬の骨に僕が出したものを処理されるなんて!
プライバシーを丸裸にされるみたいな気分じゃないか!
だいたい、なんだよ翡翠って、変な名前!
トイレの前で、毛を逆立てて拒絶をあらわにしていたのに、男は鼻をつまんだまま僕の首根っこをひょいとつかむと、ほいっと横に放り投げた。
この家では僕のほうがずっと先輩なのに、そんなぞんざいな扱い方しやがって。
やっぱり嫌いだ。
翡翠がこの家に連れてこられてきた時、僕は眠っていた。
晶子ちゃんが呑んで帰りが遅いのは毎度のことなので、僕はほとんど寝て待っていることが多い。
その日も、僕は電源の入っていないコタツの中でうとうととまどろんでいて、玄関の鍵が解かれる音でぼんやりと目覚めた。
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