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17時30分
いつもなら、まだ仕事が残っている時間。
仕事をしながら彼の帰社を待っていればいいのだが、この前の醜態を、直接会って謝るために、今日は気合いを入れて、ノルマをこなしていた。
定刻で、終われるように。
しょうがなく、直接の謝りは諦めて、謝罪文をメールで送る事にした。
勿論、社用の携帯に。それしか私は知らない。
片付けを終え、定刻ちょうどにオフィスを後にした。
落ち着きなく玄関ロビーを見渡す。
社屋を出て、駅までの道のり、すれ違う人々に目がいってしまう。
足取りは遅く、後ろを振り返っては、そわそわと、辺りを見回してみたり。
端から見たら、挙動不審でとても怪しい。
やっぱり、社に戻ろう、忘れ物とか言って、さり気なく彼の帰りを待っていようと、踵を返した。
エントランスで再入館、ホールで、エレベーターを待っていた。
取りあえず、オフィスに戻るつもりだった。
ポンッと、予告灯が光る。
私は、扉の前を避けて、通路を開けた。
スーッと、ドアが開くと、エレベーターから人が降りる。
男性が一人降りた。
黒木さん!?
その偶然に驚いた後、サングラスで本人だと確信した瞬間、身が硬直した。
彼が、私の右横を、無言で歩いてゆく。
振り向きもせずに。
私に気づかなかったのだろうか。
すぐに、呼び止めれば良かったけれど、もし、故意に、私を避けたのだとしたら…
悪い癖が、また出てしまった。
いや、そうじゃない。彼は、私を見た。
サングラスのレンズには、確かに私の姿が映っていた…
私は、その場に立ち竦んで、声も出せなかった。
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