序章 遠い約束と手紙

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序章 遠い約束と手紙

 なぜ、こうなってしまったのか。  今しがた読み終えたばかりの手紙をたたむことすら忘れて、有史はその場に立ち尽くした。  自分になにか問題があったかと考えてみるならば、それは数えきれないほどにあるだろう。それでもこれはあまりにも理不尽ではないかと思うことは多く、その度に自分は抗ってきたつもりだった。  はじまりは、いつだったか。  そうして振り返ってみた自分の人生は、なんとも情けないものだった。  物心ついた頃からいたずらばかりしていた有史は、近所の人たちにあまり好かれていないことを幼いながらに理解していた。いたずらをする度に理由もきかずに頭をさげていた母親は世間体をなにより大事にしたがる人だったものだから、きっと母親からも、自分は疎まれていたことだろう。  あまり他人を信用せず、何事もくだらないと決めつけてばかりいる、誰が見ても可愛げのない子供だった。  なぜそんなことをしていたのかと問われると、特に理由はなかったように思う。ただ、当時の有史の瞳に映る世界はとてもつまらないものだった。  ひとつ、例外を除いては。
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