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そんな有史のもとへ母親からの手紙が届いたのは、初夏のことだった。
いつも何かあるときは電話をよこしてくるのに、なぜわざわざ手紙なのだろう。そう訝しみながらも、どうせくだらないことだろうと軽い気持ちで開いた手紙の内容に、身動きがとれなくなった。
信じたくなかった。約束を守るために努力を重ねた日々が、音もなく掻き消えた。
鳴きはじめた蝉の声が、やたらとうるさく感じた。おかしいな、さっきはこんなにうるさいとは思わなかったはずだ。これから真夏にむけて蝉が増えるはずなのに、いまからこんなにうるさいと、真夏には外を歩けなくなるのではないかと頭の隅でぼんやり考えながら、有史はのろのろと手紙を読み返した。
きっと蝉がうるさくて集中できなかったから、読み間違えたのだ。
しかし何度読み返しても、内容が変わることはなかった。
真澄は亡くなっていた。それも、七年も前に。すぐには有史に伝えないほうがいいと、双方の親が話し合った結果、いまになって知ることとなった。
親たちの判断は正しかったのかもしれない。おかげで自分は叶わぬ夢を見ながら、いままでのうのうと生きてきたのだ。
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