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叶えたいことがたくさんあるのだと。再び左隣に座った少女は、両足を交互に揺らしながらにこやかに言った。
「それでね、ずっととは言わないけど、数日間だけでいいからおにーさんが手伝ってくれたらなって」
最初は妙に大人びた子供だと思ったが、理由を聞く限りはなかなかに歳相応のようだ。有史は短く息をついた。
「悪いけど、そういうのは親にでもお願いしてくれ。親に断られたのなら、大人になってから自分で叶えるんだな」
ジーンズのポケットを探り、くしゃくしゃになったタバコの箱を引っ張り出す。少女に咎められないことを確認してから残り数本のうちの一本をくわえて、安物のライターで火をつけた。
以前、元同僚がオイルライターで火をつけたほうが美味いと購入を勧めてきたことがあったのだが、吸うことができれば構わない自分は必要性を感じることがなく、購入までには至らなかった。確かに火をつけた瞬間のあのオイルの混ざった香りが鼻腔をくすぐるのは、悪くはないのだけれど。それに、真澄が煙を苦手としていたらすぐにでもタバコを捨てるつもりだった。だからライターにまでこだわろうとは思わなかったのだ。
有史はそこまで考えてからはっと我にかえり、途端に胸の中を支配しようと湧き出てきた寂しさを、タバコの煙とともに長く吐き出した。
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