一章 通りすがりのお願いごと

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 こんなに喋ったのはいつぶりだろう。たいした時間は経っていないはずなのだが、酷く体力を消耗しているようだ。つい先ほどまではあまり感じなかったが、喉がかわいてしょうがなかった。じわじわと首をしめられているような苦痛に早く話を終えたくて、有史はのろのろと立ち上がった。 「とにかく、他にも頼めそうな人くらい見つかるだろ」 「ううん、おにーさんくらいだよ、頼めるの」  え、と声を漏らして、有史は数歩はなれた日なたから肩越しに振り返る。 「暇そうで、生きることも死ぬこともできなくて、命がいらない大人なんておにーさんくらいだよ」  にこにこと、少女は笑っている。いったいいつから聞いていたのか、というより、いったいいつから自分は声に出していたのか。  やはり最初の印象通りにませた少女なのかもしれない、笑顔の裏に隠されているだろう真意を読み取ることができなかった。あるいは見た目通りに裏なんて持っていないのかもしれず、賢い子供が純粋な願いを抱いた結果なのかもしれない。  これくらいの年齢の子供が考えていることが分からないくらい、自分も大人になってしまったのだろうか。
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