一章 通りすがりのお願いごと

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「ね、せっかく持て余してる命なら、わたしに使ってくれないかな」  あくまで無邪気な声で語り掛ける少女の言葉のせいか、単に木陰から出てしまったからか。夏の日差しにすこし目が眩む感覚がする。 「いいよね、おにーさん」 「……数日間だけだぞ」  有史は溜息をついて、タバコが入っているのとは反対のポケットから携帯用灰皿を取り出し、吸殻をねじ込む。どうせ時間も金も余っている。この先どうするかを決めるまでの暇つぶしだと思うことにした。 「ほんと? ありがとう!」  嬉しそうに飛び跳ねる少女を見て、有史はゆっくりと瞬きをした。この子は嬉しいとき、こんな風に笑うのかと。 「ただし、明日からな。どんな願いがあるのかは知らないが、いまは手持ちがないんだ」 「えっとね、わたし、トウカっていいます」 「聞いてるか?」  絶妙に成り立っていない会話に不安を覚えつつ、トウカ、と心の中で繰り返す。夏の抜けるような空に似た、透明感のある名前だと思った。
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